ペーパークロマトグラフィーの実験



  1. 蛍光ペン等の実験:


  ペーパークロマト法は、展開に時間がかかるので 薄層クロマト(TLC)ほど用いられないが、支持体不要で、ろ紙を切って用いるという簡便さがある。 また、展開後のろ紙の部分を切り取って 他の実験に用いることができる。

  各種の 蛍光ペン、水性ペン、油性ペン、比較のために前節(1.(2))で作成したフルオレセインの重曹溶液を用いて(楊枝の頭で付ける)、 および エタノールで展開した。 ろ紙は、比較的緻密な定性ろ紙ADVANTEC、5C、φ125mm)を 約7〜8cm角に切って使用した。上からクリップで吊るし、ラップをかけて行なう。
  蛍光の確認には、水銀灯を用いた。(ブラックライト、紫外線LEDでもできる。)

  結果は、 蛍光ペンに含まれる色素は フルオレセインそのものではなく、(おそらく その誘導体の)別の蛍光色素だった。 水性ペンが 昔は3色(赤、青、黄)に分かれていたが、今回のペンでは黒の単色だった。 青色、緑色のマーカーでは 蛍光は弱い。 フルオレセイン・ナトリウム塩はエタノールに不溶。 マジックペンでは溶け残りが尾を引く。

  



  2. 葉の色素の実験:


  植物の葉などの色素を抽出して 展開し、クロロフィル a(青緑)、b(緑)、キサントフィル(黄色)、βカロテン(黄橙)、(アントシアン(赤))などの挙動を見る。
  展開液は、 石油エーテル:アセトン = 10 : 1 のところを、(石油エーテルが無かったので) nヘキサン:アセトン = 10 : 1 として行なった。
  試料は、 緑茶紛、紅茶紛、輪切りの赤トウガラシ をエタノールで抽出したもの、および つつじの葉を細粒のシリカゲルを加え 乳鉢で破砕し、ジエチル・エーテルを少し加えたもの を用いた。 塗布は、楊枝の頭を斜めに用い、数回繰り返してスポットした。

  石油エーテル:アセトン=10:1 のときの Rf 値(出発点からの位置/溶媒端までの長さ)は、

  色素   Rf 値   色  
β‐カロテン 0.9〜1.0  黄橙 
キサントフィル 0.6〜0.9   黄
クロロフィルa 0.4〜0.6  青緑
クロロフィルb 0.2〜0.5   緑

  結果は、色が薄く、やっと確認できるレベルだったが、それなりの規則的な順番が現れた。 試料はかなり濃縮した方が良いと思われる。 緑茶の緑色は クロロフィルbだった。 紅茶は葉の色素が壊れている。 トウガラシ、緑茶について、エタノールで展開した場合は全部移動した。
  かなり濃く出したつつじ葉では、ヘキサン‐アセトンで、明瞭な4つの色素に分かれた。 このクロロフィルa のうちのごく一部が 光合成に関わっているといわれる。

 




  3. アミノ酸の呈色実験:  フェノール劇物注意


  各試料のアミノ酸を 2種類の展開液で展開し、ニンヒドリン(C9H6O4)で呈色させ、それぞれの Rf 値から アミノ酸の種類を推定する。
  展開液A: フェノール : 水 = 80g : 20g、 展開液B: 1‐ブタノール : 酢酸 : 水 = 40ml : 10ml : 10ml
  呈色液: ニンヒドリン 0.2g / エタノール100ml (スプレー容器) ・・・ 呈色反応は鋭敏で 指紋でも色がつくので、ろ紙を持つ所に注意

  各Rf 値は、
    A液: フェノール:水=80g:20g の場合、     

アミノ酸 アスパラギン酸 システイン グルタミン酸 グリシン アラニン メチオニン ロイシン プロリン
 略号   Asp   Cys   Gln  Gly  Ala   Met  Leu  Pro
 Rf 値   0.12  0.13  0.20  0.42  0.60  0.83  0.86  0.89
 色   青紫   青   紫  赤紫   紫   紫  赤紫   黄


    B液: 1‐ブタノール:酢酸:水=40ml:10ml:10ml の場合、

アミノ酸 システイン リシン アルギニン セリン グルタミン酸 アラニン チロシン メチオニン
 略号   Cys  Lys  Arg  Ser   Gln  Ala  Tyr  Met
 Rf 値  0.12 0.17 0.25 0.30  0.35 0.40  0.51 0.57
 色   青   紫   紫


  ニンヒドリンとの反応:  1) α‐アミノ酸 に対し、 紫色 (ルーヘマン紫、吸収λ 570nm)、   2) 第二級アミン(旧イミノ酸) に対し、 黄色 (吸収 λ 440nm)

   

  (1) 遊離アミノ酸 と 調味料:

  アミノ酸試料として、グリシン(試薬)、酸析して作成したL‐グルタミン酸、 および、 味の素(グルタミン酸Na 97.5%、イノシン酸Na 1.25%、グアニル酸Na 1.25%)、 和風だし、 コンソメスープの素 を用いた。 L‐グルタミン酸(溶解度:0.84g/100g水、pH2・9〜3・9)の酸析は、味の素(グルタミン酸ナトリウムの溶解度:60g/100ml)17g/200ml水 + 塩酸(35%、8ml)/100ml水 で行ない、ろ過・乾燥して作成した。(イノシン酸、グアニル酸は除かれている)

  展開後、液の境界線に鉛筆で線を描いて、アイロン等で乾かし、ニンヒドリンをスプレーして あぶり出しのように熱すると 濃い色が出てくる。

  結果は、 グルタミン酸(紫色)がすべての調味料に含まれて、うま味調味料として配合されている。 (イノシン酸(かつお味)、グアニル酸(きのこ味)は、呈味ヌクレオチドなので ニンヒドリンでは呈色しない)

 

  (2) たんぱく質の加水分解によるアミノ酸の2次元ペーパークロマト:

  2次元なので、ろ紙の大きさは 8〜9cm角程度になるようにする。
  試料は、 卵白(ゆで卵の白身を潰したもの)と 粉ゼラチン(=コラーゲン(豚皮)) の、それぞれ0.5〜1gを取り、約5N 塩酸 10ml、80℃前後で 24時間 加水分解したもの。 それぞれの一方には、重曹で中和し、もう一方はそのまま用いる。
  塩酸、硫酸などの酸で加水分解すると、L形アミノ酸は保たれる。トリプトファンは分解してフミンとなり褐色沈殿ができる。 一方、強アルカリ(苛性ソーダ、バリタ(Ba(OH)2))で加水分解すると、ラセミ体となり、トリプトファンは保たれる。 硬いものならば48時間加熱が必要。
  展開は、A液で最初行ない(1時間くらいかかる)、アイロン等で乾かし、次に直交して B液で展開する(20分くらい)。ろ紙の面を指等で触れないよう注意。

  アミノ酸のデータは次の通り(100g中):
     卵白:  グルタミン酸 12g/100g、 アスパラギン酸 9.3g、 ロイシン 7.3g、 リシン 6.1g、 セリン 6.0g、 バリン 5.8g、 アラニン 5.3g、 フェニルアラニン 5.1g、・・・、プロリン 3.3g、 グリシン 3.2g、・・・ トリプトファン 1.3g 等になっていて、18種がバランスよく均等に含まれている。
  トリプトファンが加水分解によってフミンになり、褐色の沈殿ができるので、活性炭粉を混ぜてろ過して除く。

     ゼラチン: グリシン 33g/100g、 イミノ酸(プロリン 13g、 オキシプロリン 9.1g)、 アラニン 11g、 グルタミン酸 7.2g、 アルギニン 4.9g、 アスパラギン酸 4.5g、 ロイシン 2.4g、等で、 グリシンで 全体の1/3、 イミノ酸で 2/9 を占めている。 トリプトファンは0であり、加水分解後も少し色がつく程度で、そのまま用いる。


  結果は、概略は読めるが、A液(フェノール・水)で展開する部分はかなり引っ張られて重なり、相互分離がうまくいかなかった。
  また、ペプシンなどの酵素でタンパク質を分解する方法もあるので、次回はこれを試したい。

  





  溶媒に水が飽和するとき Rf 値が高くなり、また アンモニア、酢酸などの添加により アミノ酸相互の分離が良くなる。 一般的には、フェノール+アンモニアで行なうので、展開液A に、28%アンモニア水 6ml加えて、同様に 卵白とゼラチン(中和無し、5,6回スポットして濃くした)を展開してみた。
  すると、縦方向(展開液Aの方向)で、新たな斑点が現れたので、ある程度分離が良くなったと思われる。 ただし、それがどのアミノ酸であるかは、個別に既知のアミノ酸で確認する必要がある。 (右側の広い黄色は焼けノイズ)

   




     § 色素の歴史:

  使徒の働き16章14節には、使徒パウロがマケドニアに始めて伝道に行ったとき、テアテラ出身の紫布の商人の ルデヤという婦人がパウロたちを受け入れ、多くの支援をしたことが書かれています。 当時、紫布は、王侯貴族やローマ兵の上級の者たちが着る 服やマントに用いられ、非常に高価かつ特権階級しか着用を許されず、一時期は、染めた繊維の重さが同じ金の重量で取引されるほどでした。これは、フェニキアのアカニシガイのパープル腺から取った「貝紫」で染めた赤紫色のもので、現在でも 合成されていません。

  鮮やかな青藍色に染める 「インジゴ」は、紀元前7世紀のバビロニア時代から知られ、15世紀後期頃から インド、タイ、中南米で採れる 天然インジゴが用いら始めました。 イギリスの産業革命に伴い、17世紀から18世紀にかけて、羊毛や綿織物の工業生産性が飛躍的に上がり、その余剰の商品を売るため、海外植民地に市場を求めました。 インジゴ染色の繊維はインド製よりも付加価値が高く、インドなどに売りつけ植民地として支配してきました。(大恐慌の1929年の頃には、イギリスは40−50%輸出で、今の中国の15%よりもはるかに多かった。 その国の工業生産性が、帝国主義の原動力となり、当時の中国やインドは 貧困化していった。)
  さらに、1900年頃 合成インジゴが取って代わり、さらに生産性を上げていきました。 現在でも、アメリカのジーンズの紺色や、青色2号(食品・化粧品など)、日本の藍染等に用いられています。


   ・・・・・・・
    「しかし、あなたがたに言いますが、栄華をきわめた時のソロモンでさえ、これらの花の一つほどにも着飾ってはいませんでした。
   今日は生えていて、あすは炉に投げ入れられる野の草でさえ、神はこのように装って下さるのなら、あなたがたに、それ以上良くしてくださらないはずがあるでしょうか。ああ、信仰の無きに等しい者たちよ。
   だから、何を食べようか、何を飲もうか、あるいは何を着ようかと言って思い煩うのをやめなさい。
   これらのものはみな、国々の民が切に求めているものです。 あなたがたの天の父は、これらのものが、ことごとくあなたがたに必要であることをご存じです。
   しかし、あなたは まず第一に、 神の御国と神の義とを 探し求め続けなさい。 そうすれば、これらのすべてのものは 与えられ続けます。」 (マタイの福音書6章29−33節)




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